FUJIBO JOURNAL

持続可能な社会作りに役立つ
機能性繊維の可能性

2021.11.30

プロジェクトストーリー

現在注目されているSDGs。持続可能な社会作りに役立つ取り組みを行っている富士紡グループの機能性繊維。その開発メンバーが開発の経緯と今の取り組みについて語りました。

松本さん
フジボウテキスタイル株式会社
小坂井工場 工場長

清水さん
フジボウテキスタイル株式会社
小坂井工場 合繊製造課

機能性繊維開発の経緯

ーーまずは、合繊製造課が出来た経緯を教えていただけますか?

松本さん: 合繊製造課がある小坂井工場は、昭和26年に操業を開始しました。綿紡績、羊毛紡績を経て、「スパンデックス」という弾性繊維、伸び縮みする繊維などの合成繊維を開発していました。その頃に研究部門で、あるお客様向けにいろいろと試作していたときに、その発展形という形で溶融紡糸に取り組むことになったのが、始まりです。もう3、40年前の話ですね。現在、合繊製造課では、溶融紡糸の技術を用いてお客様の依頼に基づき特殊な材料を糸に練りこみオーダーメイドの糸を作ること、そして、「ジョイナー」、「ルミフィーロ」などフジボウ独自の機能性を有する糸の開発・製造・販売を行っております。

小坂井工場 昭和26年に操業を開始

ーー溶融紡糸とは、どのようなものでしょうか?

松本さん: 溶融紡糸は、合成繊維の作り方の一つです。樹脂を溶かして、細い孔から出して、糸状、糸にするっていう紡糸の方法を、溶融紡糸と呼びます。

当初は大手が作っているようなポリエステルやナイロンの糸も作っていましたが、原料代の方が高いくらいで、なかなか商売にはなりませんでした。そこで機能材、お客様が持っているセラミックなどの特殊な材料を練りこんで、お客様ごとのオリジナル商品を作ることになったのです。

ーー糸から生地や製品を作るというよりも、糸自体で今の時代に何ができるかを追求しているということですね?

松本さん: そうですね。糸の種類を変えていこう、という発想で始まっています。

ーー最初はどのようなものを作られたのですか?

松本さん: フッ素樹脂です。フッ素樹脂を糸にして、お客様とやり取りをしながら製品化を進めていきました。それ以降も、「機能材料を入れた繊維を作ってほしい」というお客様からの依頼があり、それを糸にしたり綿にしたりということをしてきたのです。毎月お客様から依頼があり、毎回新しい素材でトライしています。

さまざまな機能を有する製品群

ーー「ジョイナー」や「ルミフィーロ」といったオリジナルの製品は、どのような経緯で開発されたのでしょうか?

松本さん: 「ジョイナー」は特定の温度以上の熱を与えると溶けて繊維同士が接着するという糸でして30年ほど前にスタートしました。お客様からの依頼で糸にしたのですが、この樹脂を使用し、別の用途の製品でニーズがありそうと考え、自社製品として取り扱うことになったのです。

ーー他のオリジナル製品も同じような考え方で製品化されていらっしゃるのでしょうか?

松本さん: はい。基本的には受注生産、お客様からの依頼を元にものづくりをしています。しかし「その樹脂の性能が他にも応用できるのではないか」となれば、オリジナル商品として扱います。この2パターンを開発や製造販売の柱としています。私たちのスタイルは「プロダクトアウト」(自社の方針・作りたいものを基準に商品開発すること)ではなく「マーケットイン」(顧客のニーズに基づいて商品開発すること)なのです。

ーーどのような業種のお客様から、「糸にしてほしい」というお問合せがあるのでしょうか?

松本さん: 開発当初からですが、原料メーカーからのお問合せが結構あります。成形品やフィルムなどでしか使われていなかった素材の用途を広げたいとか、これから繊維分野に参入していきたいということで、一緒に試作しています。

――現在、お客様からの引き合いの多いテーマ、および着目している機能等はございますか?

松本さん: 現在、当社が注目しているテーマは、「再資源化、省エネルギー、安心(レジリエンス)」の3テーマです。全て、国連が提唱しているSDGsを実現するために様々な企業が取り組んでいるテーマに直結しており、製品開発を通じた持続的社会の構築と、その貢献を目指す企業の皆様のお手伝いをしたいと考えております。

再資源化については、様々な素材をこれまで糸に織り込むトライをしております。例えば、かなり前ですが、大学の先生から「リグニン」を糸にしたいという相談がありました。

――リグニンとは何でしょうか?

松本さん: ウッド、木の成分の一つです。セルロースは紙などを作るのに使えるが、リグニンが余ってしまうので糸を作れないかという相談でした。試作した糸を見て「サンプルが出来た」と喜んで持って帰られましたね。
あとはホタテの貝殻でもトライしたことがあります。ホタテを食べた後は、廃棄物になってしまうので。そのままだと、捨てるだけになってしまうものについての問い合わせが多いですね。

――ホタテ以外では、どのような廃棄物を糸にしているのでしょうか?

松本さん: 試作の範疇ですが植物などの廃棄物を炭にしたものを練り込んで繊維化したことがあります。また、リサイクル原料を使用した製品づくりに取り組んでいます。サーキュラーエコノミー(循環経済)に貢献することは今、どこの企業様でも重要課題です。

――まったく別の原料から糸を作るのは大変だと思いますが、どのように工夫しているのでしょうか?

松本さん: 素材の割合を増やしすぎると糸が切れてしまいます。ですから、芯鞘の複合構造にすることで、芯に高濃度に機能材を添加し、鞘で繊維強度を保持する、分級し、微細化された機能材粒子を利用するなどで対応しています。

――ありがとうございます。合繊製造課で開発したもので、現在最も注目されている製品は何でしょうか?

松本さん: 「ルミフィーロ」ですね。中に蓄光材を練りこんで、暗いところで光る製品です。

ルミフィーロ(蓄光糸) ― 明るい時

ルミフィーロ(蓄光糸) ― 暗い時

――明るくするため、どのように工夫しているのですか?

清水さん: 顔料の素材となる粒子の大きさを変えたり、濃度を変えたり、樹脂の素材を変えたりなど、いろいろなトライを経て現在に至っています。いかに光を明るくするか、夜でも光るようにするかが求められています。

もともとは刺繍糸など、アパレル業界向けにファッション性やデザイン性のあるようなものに使われていましたが、現在はこの糸の応用範囲は拡大しており、主として資材向けに用途から引き合いを多く頂戴しております。類似の製品はありますが、当社のものが一番光ると自負しています。

持続可能な社会に貢献する機能性繊維の可能性

――資材向けですと、どのような用途で使われているのでしょうか?

清水さん: 例えばテントロープですね。よくフェスなどで、山にテントをたくさん張りますよね。暗い場所でも通行場所がわかるようにとか、テントに足を引っかけて転ばないように光らせています。

――安全性が求められているわけですね。

清水さん: そうです。実用化されている例としては、消防のホースが挙げられます。消防車が火を消した後は、真っ暗になってしまい、帰るルートがわからなくなってしまいます。そこで蓄光の糸をホースに入れて、光らせることにより、退路がわかるようにしているのです。

――ホースの先をたどれば、帰って来られるわけですね。世の中の役に立つ取り組みですね。

蓄光材が入った糸について、他にはどのような用途が考えられるでしょうか?

清水さん: 高齢者が住む住宅の内装材ですね。夜に目が覚めても、階段や廊下を光らせることにより、転んだりぶつかったりしてケガをしてしまうのを防げるのではないかと考えています。

――停電など、災害発生時にも役立ちそうですね。

清水さん: そうですね。今は地下鉄の矢印などでも蓄光の素材が使われていますし、糸でも何か使えるのではと思います。あとはペットのリードも良いかもしれません。夜だとリードが見えなくて危ないことがあるので。

――福祉業界、ペット業界での応用も考えられるというわけですね。

清水さん: そうですね。他には「ソルフィーロ」という商品があり、近赤外線を照射すると温度が上昇する特性があります。現在、販促中で、アウターの衣料が中心ですが、農業向けなどで省エネにつながる商品ではないかと考えております。またUVマジックについては紫外線を当てることで瞬時に発色します。ファッション的な用途はもちろんですが、製品の判別にも使用できるのではないかと考えております。

ソルフィーロ ― 赤外線吸収発熱糸

ソルフィーロ ― サーモグラフィーによる表面温度測定結果

UVマジック ― 紫外線が当たってない状態(太陽が白い)

UVマジック ― 紫外線が当たった状態(太陽の色が変化)

――糸というとアパレルのイメージが強いですが、アイデア次第でさまざまな展開が考えられますね。

清水さん: はい。当社では様々な特殊材料で繊維化がトライ可能です。かつ、少量、迅速に対応いたします。

――もしご興味を持たれた企業の方は、ぜひお問合せいただければと思います。本日はありがとうございました。

機能性繊維開発・試作